量子コンピュータに関する国内企業の動向
前回は、世界中の企業で量子コンピュータの開発競争が起きていることをお話ししましたが、日本でも量子コンピュータの実用化を見据えた企業が続々と登場しています。
2018年5月には大手素材系メーカーのJRSと三菱ケミカル、そして大手銀行の三菱UFJ銀行とみずほフィナンシャルグループが慶應義塾大学と協力し、IBMの量子コンピュータ「IBM Q」を利用して、実用的なアプリケーションの開発を進めると発表しました。
量子コンピュータに対する国内の技術投資も拡大しています。NECは2018年度中に量子コンピュータの基礎回路を作り、2023年度までに数10億円を投じて実機を開発する予定です。また、富士通は量子コンピュータの関連技術に3年間で500億円を投じるとのことです。
その他、国内の主な企業の取り組みは以下のようなものです。
企業名 | 主な取り組み |
NTT・国立情報研究所など | 光の量子力学的な特性を利用した「量子ニューラルネットワーク(QNN)」をクラウド経由で無償提供 |
NEC | 2023年までに「量子アニーリングマシン」※の実用化を目指す |
富士通 | 量子現象を模倣したコンピュータ「デジタルアニーラ」を利用したサービスの提供を開始 |
日立製作所 | 「CMOSアニーリングマシン」※を開発、クラウドサービスとして公開 |
※「アニーリング」とは量子コンピュータの方式のひとつです。他に「量子ゲート方式」がありますが、詳細はまた別の記事でお話しします。
日本勢は基礎研究では先行していたものの、商用化では海外に比べて出遅れていました。しかし政府も2018年度から大学などの研究支援を強化する方針で、産官学の連携により巻き返しを狙っています。
量子コンピュータ開発は国家プロジェクト
量子コンピュータの実用化に向けて、近年では企業のみならず、各国の国家プロジェクトも動き始めています。
例えば、EUでは2019年から10年間に10億ユーロ(約1300億円)を量子技術に投資する予定である他、米国では今後10年間で、量子技術の研究者育成のために、およそ13億ドル(約1500億円)の財源を投資する法案(国家量子イニシアチブ法)の制定を急いでいます。
また中国では2020年に、総工費なんと100億ドル(約1兆1000億円)をかけて「量子技術研究開発センター」を開設する予定です。
日本でも、内閣府や経済産業省が量子コンピュータ関連の研究分野に数10億円~100億円規模の予算(2018年度)を申請するなど、実用化に向けた動きを加速させています。
このように現在、量子コンピュータの開発は企業間の競争を超えて、国家の威信をかけた争いに発展しています。