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ワインボトルの栓の素材 -コルクVSゴム-

2024年1月2日
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約 4 分

お肉料理には赤ワイン、お魚料理には白ワインなど、食事の時に組み合わせると料理の味わいも引き立ちますね。

ところでワインの栓にはコルクが使われています。最近は、金属のスクリュー式の蓋もありますが、やはりコルクで栓をしてあるワインは味わい深くておいしそうですね。

コルクはコルクガシというブナ科の木の皮を加工して作られ、栓として使われ始めたのはなんと2000年以上前と言われています。

↑コルクガシの木。地中海沿岸が原産地で世界全体のコルク生産量の約50%はポルトガルが占めています。

またガラス製のワイン瓶の栓として使われ始めたのは1700年代です。コルクのおかげで、ワインの容器内を密閉することが可能になったため、そのころから長期熟成のワインが作れるようになりました。

ところでコルクのかわりにゴムのような素材で栓をするのはダメでしょうか?現在は、もっと密閉性が高く、安全なゴムの栓があっても不思議ではありません。

でも、ゴム栓のワインは見たことないですよね。なぜでしょうか?

実は「押し込んで栓をする」「引いて栓を抜く」という動作に、ゴム栓は向いていないのです。

まず次の映像を見てください。この映像のようにほとんどの物質は、縦に押しつぶすと太くなり、引っ張って伸ばすと細くなります。

 

消しゴムなどを想像していただければ分かりやすいと思います。指で押すと太くなり、引っ張ると細くなってちぎれてしまいます。

この「押しつぶした時の横への広がり方」と「引き伸ばした時の細くなり方」を決めるのが「ポアソン比」と呼ばれる物理量です。

ポアソン比は材質によって違う値になりますが、もし変形の前後で体積が変わらなければ0.5になります。縦に短くなった分、横に太くなって体積が一定になるのです。

一方、ポアソン比が0の物質は押しつぶしても、引き伸ばしても太さには変化がありません。もちろん体積は変化します。

↑(左)元の状態 (中央)ポアソン比0 (右)ポアソン比0.5

この画像から分かる通り、同じだけ縦に押し縮めても、ポアソン比が0と0.5の物質では横の太さが違いますね。ポアソン比が0の場合は、横幅は変化しませんが、0.5の場合は横に太くなります。

実は、ゴムのポアソン比は約0.5、コルクのポアソン比はほぼ0です。そしてこれがゴム栓とコルクの決定的な違いなのです。

もしゴムで栓をしようとすると、細い瓶の口に押し込むときに縦方向に力を加える必要があります。ところがこのとき、横に太くなろうとする力が働き、ボトルの先端に引っかかって奥まで押し込むことができません。

逆に栓を抜く時は、引っ張った部分が細くなるので途中でちぎれて、きれいに引き抜くことができません。これは不便ですね。

一方、コルクの場合、押し込んでも太くならないので、ワインの口の奥の方までしっかりと入って行きます。

そしてコルクを抜く時は、引っ張っても細くならず、きれいに引き抜くことができるのです。

コルクは他にも軽くて断熱効果が高いという性質があるので、ワインを保存させるのにぴったりの素材なのです。

いかがでしょうか?当たり前すぎて疑問にも思わなかったけど、科学的な視点で見てみると「なるほど」と思うことはけっこう沢山あります。

みなさんも、普段何気なく目にしているものに「なぜだろう?」と疑問を持つことで、新しいアイディアのヒントになるかもしれませんよ。

この記事を書いた人

下河 有司
■ 東京大学で博士号を取得(専門は物理工学)
■ 東大生産技術研究所の博士研究員
■ 東京電機大学の非常勤講師
■ ITエンジニア
を経て
■ 現在、社会人学習塾「クリエイティブ・サイエンス」を運営。科学を学び直したい大人の方を支援しています。